親知らずの抜歯・移植
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親知らずとは
親知らずとは前から数えて8番目の歯のことです。現代人は顎の骨が小さくなる傾向が強く、生えてくるスペースが無いために顎の骨の中に埋まったままになる方もおおいです。
図のように奥歯のさらに奥にある歯のことです。ただの歯なのになぜ抜くことが多いのかというと、歯というのはエナメル質の周辺は骨が出来ないように設計されています。
よって、骨の中で親知らずが埋まっていると骨の中に空洞のような部分が出来てしまうことがあります。
骨の中に大きな空洞があります。エナメル質の周辺のみ空洞になっているのがわかりますね。ここを歯嚢といいます。ここに感染が起きると大きく腫れます。抜歯をしないことには再発を繰り返しますので、抜歯をお薦めすることが多いです。また、しっかり生えている方でも腫れることがあります。なぜかというと親知らず周囲の歯茎は柔らかく、歯周ポケットが形成されやすいために智歯周囲炎という独特の歯周病になります。一般的な歯周病より強い痛みが出やすいことが特徴です。
ピエゾサージェーリーを駆使した低侵襲な親知らずの抜歯
ほうじょう歯科日本橋では、様々な外科処置で使用できる「ピエゾサージェリー」という超音波切削機を完備しております。
ピエゾサージェリーは超音波で骨や歯などの硬組織を削るため、不快な振動もなく、精密な切削が可能です。また、歯茎などの軟組織へのダメージも少ないため、外科処置後の痛みや腫れを抑えることができます。
当院では、親知らずの抜歯で骨を削るような処置が必要な場合は、必要に応じてピエゾサージェリーを使用します。
親知らずの抜歯の種類について
親知らずの抜歯には数種類の方法が考えられますのでご紹介します。
普通抜歯
通常の歯と同じようにペンチのようなものでゆっくり左右に揺らし抜歯する方法です。まっすぐ生えている場合のみ可能です。
分割抜歯
歯茎を切開し、歯を分割して抜歯する方法を言います。横に埋まっている親知らずに適応します。
二回法による抜歯
親知らずに神経が近すぎる場合に適応します。
腺の箇所で分割し、一部分抜歯します。すると、残った部分が自然に移動し、安全に抜歯できる位置まで移動してから抜歯する方法です。
現在、分割した残りの部分を放置しても問題ないという論文が多数を占めていますので、そのままにする方が主流になっております。
親知らずの治療期間の目安
親知らずは抜歯してから1週間前後腫れることがあります。また、分割抜歯をした場合、縫合することがありますので一週間後にもう一度来院しなくてはいけないケースもあります。抜いた箇所は半年くらいかけてゆっくり埋まります。抜いたばかりの頃は穴に食べかすなどが入り不快症状が出やすいです。よくある質問で、「抜いた穴の内部に残った食べかすがそのままになって歯茎にくるまれることはないか心配」ということを聞きますが、それはあり得ませんのでご安心ください。抜いた穴は穴の底から盛り上がっていく感じで治癒しますので、体にそのままということはありえません。
親知らずの抜歯のリスク
下歯槽神経麻痺
下の親知らずは下歯槽神経という太い神経に近接していることが多いため、症例によっては神経を損傷してしまうことがあります。下歯槽神経は下唇のあたりの知覚が麻痺してしまいます。運動をつかさどる神経ではないため、動かなくなるということはないです。麻痺は時間とともに治癒するケースと神経を完全に切断してしまったケースでは一生戻らないこともあります。
ドライソケット
抜歯をした後、通常は血液がたまり瘡蓋のような状態になります。しかし、血の味が気になりゆすいでしまって瘡蓋が出来ないと骨が露出してしまうことがあります。ドライソケットは非常に痛く腫れないという特徴があります。長引く場合、麻酔し再度歯肉から出血させる場合があります。
上顎洞穿孔
上の顎の中には上顎洞という空洞があります。その中と親知らずの根の先がつながっているケースがあり、その場合、抜歯後に鼻出血がある場合があります。なるべく鼻をかまないようにしてもらい様子を見ます。
出血
抜歯した後に出血してしまうことがあります。その場合はガーゼなどを噛んで頂いて止血します。
親知らずの移植
親知らずの移植とは
親知らずは抜歯が推奨されることが多いです。しかし、稀に親知らずが役に立つことがあります。親知らず以外の奥歯で抜歯が必要な症例では、親知らずをその欠損箇所に移植することが可能なケースがあります。移植と聞くとドナーから特定の臓器を頂くイメージが強いですが、歯の移植に関しては本人の親知らずを移植することが多いです。歯の移植は新しい治療ではなく、大昔からあったと言われています。有名な話でナポレオンが部下の歯を移植したとことも知られています。また、現代では歯の移植は本人の使わない歯を失った箇所に移植する方法しか行われていません。他人の歯を移植することも昔はあったようですが、梅毒の蔓延から廃れたようです。ここでは歯の移植についてお話します。
歯・親知らずの移植の手順と注意点
移植が必要な部位をレシピエントサイド、移植に使われる歯をドナー歯と呼んでいます。まずはドナーとレシピエントがマッチするかをCTで撮影し、調べます。この段階で、ドナーとレシピエントがあまりにも形が違いすぎたり、ドナーが大きすぎて歯槽骨に入らなそうな場合は諦める必要があります。また、レシピエント側が大きく、ドナー側が小さすぎて 血液を隙間に貯められないような症例は先にレシピエント 側の歯を抜いて、歯肉の治癒を待ってから移植することが 必要とされます。インプラントで言うところの待時埋入に似ています。移植にはこのような術前の判断が必要ですので、CTが必須と言っても過言ではないと思われます。
移植の治療期間
親知らずの移植を行った後、3週間後に根管治療を行います。(患者さんが若く、根が出来ていないケースでは行いません)移植に際し抜歯した時から歯の神経は死んでしまい、つながることは無いからです。根管治療が終わった後は、骨が再生するのに3カ月以上かかりますが揺れが無くなった段階でかたどりをしてから被せてしまいます。よって、治癒機関は人それぞれ異なります。
移植の注意事項
移植はインプラントと異なり、生着しないことがあります。原因は移植した部位に血液が溜まらないことが挙げられます。血液をためる為には移植後は舌で触ったり揺らしたりしないこと、ゆすぎ過ぎないことが挙げられます。
移植の実際
ほうじょう歯科医院新日本橋で行った親知らずの移植症例
実際にほうじょう歯科医院新日本橋で行った親知らずの移植症例を用いて手順をご紹介します。36歳女性で全身疾患、既往歴など特になで、ご来院時に左下の奥歯から膿が出るとの主訴でした。結果的に右下の埋まっている親知らずをこの左下の奥歯を抜歯した箇所に移植することとなりました。
① 左下奥歯は抜歯不可避でした
左下7番の頬側に一点のみ12mmのポケット。動揺(ー)、打診(ー) 被せ物を外すと破折線が確認されたため、抜歯をすることにしました。
② 抜歯した奥歯
③ 抜歯後埋入の親知らずを確認
右下の完全埋伏智歯(完全に歯ぐき内に埋まっている親知らず)を移植に使うことにしました。
④ 親知らずの移植直後
移植直後です。歯冠を分割したため、かなり深めの埋入になっています。
⑤ 親知らずの移植後のレントゲン
左写真が移植直後のレントゲンで、真ん中は移植後3週でファイル試適時のレントゲンです。最後の右側は移植後4ヶ月のレントゲンです。骨が出来て埋入した親知らず歯の周りにしっかり骨が出来ています。
⑥ 親知らずの移植後4週の状態
親知らずの移植後4ヶ月。動揺も落ち着いています。
⑦ 被せ物を装着
クリアランスがなかった為、強度重視のフルジルコニアクラウンをセットしました。理想的には左上7番を圧下し補綴するほうが望ましいですが、患者さんと相談した上で、このまま補綴を行うことになりました。
親知らずの抜歯にCTは必要か
全ての症例に必要なわけではありませんがCTが有効な症例があります。
親知らずが神経管に近接している場合
レントゲン上で下歯槽神経に触れている場合でも、CT上で実際に計測すると距離がある場合があります。
上顎洞に入り込んでいる
根の先が上顎洞に入っている症例で、CTで確認することがあります。レントゲンでは問題ないように見えてもCTで見ると危険な場合があり、その場合は抜歯を断念することがあります。
根の形が3Dで把握できる
簡単に抜歯できそうな症例でも実際にはなかなか抜歯出来ない症例があります。CTで確認すると根の形態が複雑で、症例によっては釣り針のような形をしていることがあります。