非歯源性歯痛(歯が原因でない痛み)と歯科治療
非歯源性歯痛について、詳しい歯科医師はごく少数です。
私も一般的な先生よりほんの少し詳しい程度で、そんな私が解説するのは甚だおかしな話ですが、これは患者さんにとっても、歯科医師にとっても、すごく重要なお話なので、可能な限り、わかりやすく浅い知識をお話します。
まず、顎顔面痛学会という組織があります。
ここは、一般的な歯科医師が対応する、炎症という疾患以外に起因する痛みを研究する学会です。
そこによりますと、非歯源性歯痛は8つの原因に分類することができます。
1,筋・筋膜性歯痛
2,神経障害性歯痛
3,神経血管性歯痛
4,上顎洞性歯痛
5,心臓性歯痛
6,精神疾患による歯痛
7,特発性歯痛
8,その他
この中で、非歯源性歯痛の70%くらいを占めるのが1の筋・筋膜性歯痛です。
私の患者さんでも、「他院にて治療したが痛みがよくならない、前の歯科医師には気のせいと言われた。」という患者さんがよくいらっしゃいます。
そんな患者さんにレントゲンや、CT、ミラーでこんこん叩いたり、他の歯が原因ではないか冷たいものや電気を使ったり・・・。一生懸命調べますが歯に全く異常が確認できないことがよくあります。
そんな時、私は何をするかというと大学病院のペインクリニックを紹介しています。
歯科医師は虫歯や歯周病などの治療のトレーニングはかなり積んでいますが、非歯源性歯痛の診断、治療のトレーニングはほとんどされていないからです。
にわか知識で患者さんを苦しめることがないように、専門の先生にお任せするようにしております。
大学病院で治療を受けてきてくれた場合、大学病院からお手紙を頂くことが多いのですが、そこにはこの「筋・筋膜性歯痛」と診断されていることがほとんどです。
驚きですが、筋肉の筋膜という部位の痛みが歯の痛みとして錯誤されてしまうという現象があります。(なんと当院のスタッフもなったことがあります。)
治療としては、筋膜という筋肉に関連する部位の痛みなので(筋肉痛ではない)ストレッチやマッサージで緩解することが多いようです。
患者層としては、女性が多いといわれており、理由としては、女性のほうが顎が華奢で、歯科治療の際に開口を無理して行っていると発症してしまうようですが、理由は他にも多々あるようです。
一症例見てもらいます。
患者さんは若い女性で、術前に痛みは何もありませんでしたが、被せものが壊れたために、再治療をすることにしました。
MB根がほとんど治療できておらず、根管内に多量の壊死した歯髄や細菌の存在が疑われたため、症状は全くありませんでしたが、根管治療からやり直すことにしました。
未治療だったMB根も無事掃除し、
美しい根管充填がされました。
しかし、患者さんは術前には全く痛みなどなかったのに治療後から強い痛みを感じるようになりました。
根管治療の術後痛は主に、
1、根管外への器具の操作
2,細菌を根管外に押し出してしまった
3,洗浄液を根管外に押し出してしまった
の3つのどれかになります。そして、どんなに気を付けていても、このどれも起きてしまうときはあります。それは私であってもフリードマン先生であっても同じです。
しかし、今回はこの3つと症状が違いました。
具体的には根管治療の術後痛は治療を行っている歯の根尖付近に問題がでるため、その歯を触ったりすると痛みが出るのですが、今回は四六時中痛みがあり、触っても触らなくても上の歯だけでなく下の歯も痛いということでした。試しに筋・筋膜痛のトリガーポイントを触ると、めちゃくちゃ痛みが出ていました。
顎がとても華奢な患者さんで口を大きく開けるのがそもそも苦手な方だったのですが、無理して長時間の治療に耐えて頂いたために、このような症状が出てしまいました。
恥を忍んでこのようなお話をさせていただいたのは、同じような症状で苦しんでいる患者さんはかなり多いはずで、そのような患者さんに、「自分は異常ではない」ということを知っていただきたいからです。
本当に何件目かに当院にお越しいただき、そのときには既に何本かの無意味な治療と無意味な抜歯をした後だったという人もかなり居るのです。
そして適切な診断と治療がされれば侵襲的な治療なしに問題が解決されることが多いのです。
以前、別の患者さんで歯が原因ではない痛みの可能性が高かったためにペインクリニックをご紹介しようとしたら、「私が頭がおかしいって言うんですか?先生、絶対許さない!」と言われてしまったことがあります。しかし、痛みは必ず存在しますし、原因も存在します。ただ、私にその痛みを解決してあげられないので、専門の先生に診てもらうべきと判断したまでで、その患者さんはペインクリニックを誤解されているようで、私の話も全く聞いていただけませんでした。
いつか神経障害性歯痛に関しても、私の浅い知識をご紹介したいと思います。